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凄彩(第二稿)

2015.07.01 (Wed)
 私は彼に、何故人を殺したのか、と問うたことがあった。

 訊いた私の、真剣な表情が面白かったのか何なのか、彼はけらけらと盛大に笑って、不機嫌さを露にする私に、そのことを謝罪してから話し始めた。
「色鮮やかな世界が見たくて」
 至極素っ頓狂な答えに、私はその言葉の真意を理解できず、眉根を寄せた。
「別に色盲とか、そういうわけじゃないんだけれど、多分。僕、赤という色だけが綺麗に見えなくてね。汚い汚い、くすんだ色。物心ついたときにはもう、そういう風にしか見えなかったから、赤ってそういう色だと思い込んでいたんだ」
 私には彼の言っていることが理解出来なかったが、生憎暇を持て余している身。質問したのは自分自身であるし、退屈凌ぎには丁度良いだろうと、黙って聞くことにした。
「僕の母が交通事故で死んだことは知っているかい?」
 ああ、知っている。確か中学生だった君は軽傷だったが、母親は重体、そのまま逝ってしまわれたと。君が以前言っていた。
「なら、良い。それで僕はその時、血に濡れた母親の姿を見て気付いたんだ。ああ! これが『赤』だ! 僕が求め欲していた、真の『赤』だ! ……とね」
 まるで作り話だ、と私は思った。そんな設定は小説で五回は読んだことがある。いや、五回もないか。少しばかり話を盛り過ぎてしまったかもしれない。
「作り話だろうという顔をしているね」
 彼は私の顔を見て、喉を鳴らして笑った。
図星である私は、続けろと言わんばかりに咳払いをすると、彼は笑った後、息を吸い、再び神妙な面持ちに戻って続けた。
「まあそんなこんなで、僕は『赤』を知ることが出来た。僕のこの病気は治ったんじゃないかと、うきうきしながら、病院でテレビを付けたんだけれど。ああ、ちょうどそのとき確か……そうそう、僕は微塵も興味が無かったアメリカのヒーローの映画をやっていてね。それでもやっぱりヒーローの纏った赤は汚いくらいにくすんでいて、僕はテレビのリモコンを手すりに思い切りぶつけて、へし折ってやったんだ。……後で看護婦にしこたま怒られた」
 果たしてリモコンのくだりは必要だったのかと思いながらも、口を噤んでおく。彼の話をぶった切ってしまうと後々長くなってしまいそうで、面倒なことこの上ない。
「血を見ることでしかあの綺麗な『赤』は見られないのかと思って、退院してから、飼い犬のマックスをバットで殴り殺した。……でも違ったんだよ、あの『赤』とは。それで、僕は潔く、人じゃないと駄目なのかと思って、当時僕のことを好きだと言っていたクラスの地味な子……名前は何と言ったっけな。忘れてしまったけれど、その子をこっそり家に招いて、カッターナイフで刺し殺した。……でもやっぱり駄目だったんだよ。あの子の血は、それはもう、まるで経血みたいに汚かったんだ」
 『赤』への執着が彼を此処まで駆り立ててしまうとは、誰も彼も想定外だったろう。これ以上にない悲劇だ。吐き気がする。それにしても、経血とは、酷い例えをする。
「それから僕は人知れず沢山の人を殺したよ。多分、警察に立件された数の倍は、裕に超えているんじゃないかな。存外、バレないものだよね」
 警察の捜査もかなりザルだ。ほとほと呆れる。まあ、人一人行方不明になったところで、家出で片付ける様なことも多々あると言うし――消息が掴めさえしなければ、永遠に被害者たちが家出から戻ることはないのだ。
「二度目に美しい『赤』を見ることが出来たのは父親をソムリエナイフで殺した時。僕はそこでやっと、大事な人の血じゃないと駄目だと気付いたんだ。そして、三度目は──」
 そこまで流暢に語っていた彼が、突然言葉を詰まらせ俯いた。暫くして、下にやっていた目線を上げて、私の顔を窺う様に、こちらを見やった。
 私は無表情で、その視線に応えた。
「……僕を憎んでいるかい」
「私の血は、ちゃんと『赤』かったのか」
「ああ。この上なく綺麗な……『赤』だったよ」
「……そうか」

 彼は今日午後、死刑が執行されるらしい。
 それを見届けるのが私の最後の責務だ。きっと、全て見届けた頃、私は消えるだろう。
 私は彼を確かに愛していた。そして、――彼も私を愛してくれていた。だからこそ、私の血は彼に最後の『赤』を――。

 刻々とその時が迫っている。
彼は最期、何を考えて、逝くのだろうか。

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猫(お題:動物/パーカー)

2015.04.08 (Wed)
「何か今日雰囲気違うね。えーと……カジュアル?」
彼女はいつもワンピースとかブラウスとか、そういうような女の子らしい服装をしている印象だったので、パーカー姿は珍しくて、それでも似合っているから元がいいのか何なのか。
「そ、そう……かな。……変?」
「ううん、似合ってるよ。いつもとイメージ違うけど、新鮮って言うか」
僕がそういうと彼女は恥ずかしそうにして、パーカーのフードを目深に被った。フードにはちょこんと、猫耳が付いている。それもまた彼女が着ていても嫌味がない。
「あ、ありがとう……」
どうやら照れさせてしまったらしい。フードから覗く頬は僅かに赤い。
「このパーカー可愛かったから、思わず買っちゃって。……似合ってるなら良かったぁ」
そう言って彼女は微笑えんだ。屈託のない笑顔に僕の胸が高鳴って、ぎゅう、と締め付けられたような感覚に陥った。 彼女に引き寄せられた目が離せない。
一方通行かもしれないけど、彼女が僕のこと好きになることなんて無いかも知れないけど。彼女を見ていられるのならそれでも良いとさえ思ってしまうなんて、僕も大概、彼女に相当参ってしまっているらしい。
「ええと、猫、好きなの?」
「えっ? 何で?」
「フードに耳付いてるなー、と思って」
猫耳付いてるから猫が好きなのかなんて安直すぎたかもしれないけれど、会話を途切れさせるのも気まずくて、何とか話を振る。
「うん、好きだよ。マンション動物駄目だから、家じゃ飼えないんだけど……」
「僕も、僕も好きだよ!」
好きだと言われ条件反射的に好きだと返してしまった。これは猫の話であって僕のことではないのだ。確かに、僕も猫は好きなんだけれど。
「そうなんだ。あのね、最近この辺に猫カフェが出来たみたいで……行きたいけど一人じゃ嫌だなぁ、って思ってたんだけど、もし良かったら……あ、突然何かごめんね忙しいかな……?」
「ホントに!?僕で良かったら、是非一緒に行こう!」
天恵なのかもしれない。彼女が誘ってくれるなんて。行きます、行きますとも。貴女とならば何処までも。
「やったぁ!じゃあ、他の友達にも声掛けてみるね、ありがとう!」
「あ、あー……うんありがとー……」
ああ、ですよね。二人きりなんてそんなわけありませんでしたね。 僕は心中でひっそり泣きながら、でも本当に嬉しそうな彼女の笑みに絆された。
彼女本当に可愛いなぁ。可愛すぎるのも罪だなぁ。猫カフェ、楽しみだなぁ。

鮮やかな(お題:鮮やか/リモコン/殺人鬼)

2015.04.08 (Wed)
 私は彼に、何故人を殺したのか、と問うたことがあった。

 訊いた私の、真剣な表情が面白かったのか、彼はけらけらと盛大に笑って、そのことを謝罪してから話し始めた。
「一度で良いから、鮮やかな世界が見たくて」
 えらく素っ頓狂な答えに、私は眉根を寄せた。
「別に色盲とか、そういうわけじゃないんだけど。多分。僕、赤だけが綺麗に見えなくてね。汚い汚い、くすんだ色。物心付いたときにはもう、そうとしか見えなかったから、赤ってそういう色だと思いこんでたんだ」
 私には彼の言っていることが理解出来なかったが、生憎暇を持て余している身。訊いたのは自身であるし、退屈凌ぎには丁度良いだろうと、黙って聞くことにした。
「僕の母が交通事故で死んだのは知っているかい?」
 ああ、知っている。確か中学生だった君は軽傷だったが、母親は重体、そのまま逝ってしまわれたと。君が以前言っていた。
「なら、良い。それで僕はその時、血に濡れた母親の姿を見て気付いたんだ、ああ! これが赤だ!僕が求め欲していた真の赤だ! ……とね」
 まるで作り話だ、と私は思った。そんな設定は小説で五回は読んだことがある。いや、少しばかり話を盛ってしまったかもしれない。
「作り話だろうという顔をしているね」
 彼は私の顔を見て、喉を鳴らして笑った。図星である私は続けろと言わんばかりに咳払いをすると、彼は笑った後、息を吸い、再び神妙な面持ちに戻って続けた。
「まあそんなこんなで、僕は『赤』を知ることが出来た。僕のこの病気は治ったんじゃないかと、うきうきしながら、病院でテレビを付けたんだけれど、やっぱり画面の赤はくすんでて、僕はリモコンをへし折ってやったんだ。後で看護婦にしこたま怒られた」
 リモコンのくだりは必要だったのかと思いながらも、口を噤んでおく。彼の話をぶった切ってしまうと後々長くなってしまいそうで、面倒臭い。
「血を見ることでしかあの色は見れないのかと思って、飼い犬のチップも殺した。でも違ったんだよ、あの色とは。で、人じゃないと駄目なのかと思って、当時僕のことを好きだと言っていたクラスの地味な子をこっそり家に招いて、殺した。……でも駄目だった。あの子の血は経血みたいに汚かったんだ」
 色への執着が彼を此処まで駆り立ててしまうとは、誰も彼も想定外だろう。これ以上にない悲劇だ。それにしても、経血とは、酷い例えをする。
「それから僕は人知れず沢山の人を殺したよ。多分、警察に立件された数の倍は、裕に超えてるんじゃないかな。案外、バレないモンだよね」
 警察の捜査もかなりザルだ。まあ、人一人行方不明になったところで、家出で片付ける様なことも多々あると言うし、消息が掴めさえしなければ永遠に被害者が家出から戻ることはないのだ。
「二度目に美しい赤を見ることが出来たのは父親を殺した時。そこでやっと、大事な人の血じゃないと気付いたんだ。三度目は────」
 そこまで流暢に語っていた彼が突然言葉を詰まらせた。下にやっていた目線を上げて、私の顔を窺う様に、こちらを見た。
 私は無表情で、その視線に応えた。
「僕を憎んでいるかい」
「私の血は、ちゃんと赤かったのか」
「ああ。この上なく綺麗な……赤だったよ」
「そうか」

 彼は今日午後、死刑が執行されるらしい。
 それを見届けるのが私の最後の責務だ。きっと、全て見届けた頃、私は消えるだろう。
 私は彼を確かに愛していた。そして、────彼も私を愛してくれていた。だからこそ、私の血は彼に最後の『赤』を────
 刻々とその時が迫っている。彼は最期、何を考えて、逝くのだろうか。 

きんぴら

2014.11.02 (Sun)
 君が死んで三度目の春が来た。
 一人娘の理恵は今春から大学生で、上京してしまったため、ついにこの家には僕一人と妻の仏壇だけになってしまった。
「──祐子」
 そう呟いて、遺影の妻の輪郭を、指でつつとなぞってみる。

 目を瞑ると、六年前に余命宣告を受けた祐子の辛そうな横顔が、今でも鮮明に想起される。精神的にも、肉体的にも辛かっただろうが、僕には毎日病室へ見舞ってやることくらいしか出来ず、何も出来ないことが歯痒く、酷く腹が立った。
 祐子は余命宣告通り、それから三年で死んでしまった。何故だか涙は流れなかった。教職に就いていて、交友関係が広かったせいもあってか、葬儀には沢山の人が参列していた。形だけだとしても、こんな大勢の人が祐子を弔ってくれるという事実だけが、妻を亡くした酷い悲しみの中少し嬉しく、ただ、それでも僕が涙を流すことは無かった。
 僕は空っぽだった。
 理恵も、祐子が死んでからしばらく塞ぎ込んで、学校を休みがちになって居たが、それも時間が経てば吹っ切れたようで、以前のような笑顔を見せるようになった。
「お父さん、チャーハンとカレーくらいしか作れないんだから」
 そう言って料理は理恵の担当になって、理恵の料理の腕はめきめきと上がっていった。これならば、上京して一人暮らししても困らないなと褒めたことがあったが、理恵は、「お母さんの腕には、まだまだ及ばないけどね」と言って困ったように笑った。その顔が印象的で、理恵自身は何気なく言っただろうその言葉を、未だ僕は覚えている。

 だだっ広い家での一人暮らしにも、段々と慣れてきた。
 最初のうちはコンビニ弁当のゴミが積み重なるだけの生活だったが、一人の生活と言うのは存外暇なもので、気紛れに料理をしてみることにした。仕事帰りにスーパーに立ち寄って、料理サイトを開いた携帯片手に、食材をカゴに突っ込んでいく。
 ちゃんと調味料棚を確認してから買い物をしないから、みりんの瓶が二つになった。
 初めて作ったのは、牛蒡のきんぴら。祐子の手料理の中で、一番好きな料理だと理恵がよく話していた。
 牛蒡と人参を細切りにして、輪切りの鷹の爪と一緒に、胡麻油で炒める。だし、みりん、酒、砂糖、醤油を加える。これなら僕にも出来る筈だと高を括っていたが、食べてみるとどうにも祐子のものとは違う。食べられない味ではないのだが、何かが物足りない。
 僕は何かの欠けたきんぴらをおかずに、黙々と独りで夕飯を食べた。

 次の日も、僕はきんぴらを作ることにした。そこに足りない何かを探すために。昨日と同じ手順で、少しばかり慣れた手付きできんぴらを作る。
 出来立てで熱々のそれを、菜箸で一口食べてみる。しかしやはり祐子のきんぴらとは何か違う。何が足りないのだろうか、と僕が首を傾げていると、不意にテーブル上の携帯が鳴り響いた。どうやら、理恵からの電話らしい。菜箸を置いて通話ボタンを押す。
「もしもし、お父さん?」
 どうやら、理恵は僕が独りで暮らせているのか心配で、世話を焼く為に電話をしてきたらしい。これは普通、僕が理恵にするべきことではないかと思ったのだが、口を噤んでおく。
「ちゃんと、ご飯作ってる? コンビニ弁当ばっかは駄目だよ!」
 まったく、母親に似て世話焼きに育ったものだと思う。きんぴらを作ってみたのだと僕は話した。
「そうなの? 私、きんぴら大好き! お母さんのきんぴらは、鷹の爪の代わりに、最後にラー油を入れてるのが好きだったんだよねぇ」
 ラー油。祐子のきんぴらにはラー油が入っていた。違うのは、これだったのか。
 祐子が料理をしていても、僕はソファーでテレビを見ていたり、ゴロゴロしていたりして、きちんとその手順を見ていなかったので、そんなことは知らなかった。むしろ、きんぴらに使う調味料自体も、昨日携帯で調べるまでさっぱり知らなかった。
 理恵と他愛ない会話をしながら、携帯は顎と肩の間に挟んで、僕は先程のきんぴらにラー油を加えてみる。
 そして一口。
 祐子の味がした。見映えこそ劣るけれど、もしかしたら調味料の分量も多少違うかもしれないけれど。確かに祐子の味がしたのだ。
「そうそう、お父さん、私ね。何の考えもなく今の大学に進学したんだけど、夢が見つかったよ。私、お母さんと同じ、教師になる。お母さんの分まで、私、色んなことを生徒に教えてあげるんだ」
 理恵が嬉しそうにそう話す。僕は口の中のきんぴらを噛み締めながら、
「うん、うん」
 きんぴらは、いつの間にかしょっぱくなっていた。

欺計

2014.11.02 (Sun)
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Category: novel
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